Q.私は遺言を書く必要性を感じないのですが、それでも書いた方がよいのでしょうか。財産があまり無いし、家族や親族は仲が良いので心配していません。
A.遺言は、相続手続きを円滑に進めることが主な目的です。そのため、財産や家族仲に関わらず、遺言を書くことをおすすめします。
遺言がない場合の相続手続きは煩雑です
相続財産の額や多少にかかわらず、遺言がない場合、相続手続は煩雑になります。土地や預貯金口座などの名義を変えるのにいろいろな書類や手続き、ほかの相続人の関与が必要となってきます。
実際、相続人全員が合意している事実があり、法律上の問題が存在しなくても、手続においては、それを書面で提出することが要求されます。関係機関も口頭だけの説明では手続できません。
相続手続には原則亡くなった人の出生から死亡までの戸籍をすべてそろえ、遺産分割協議をする必要があります。場合によっては甥っ子や姪っ子も相続人となります(詳しくは後述)。しかも遠方に住んでいるとなると、一堂に会して話し合うことも難しくなります。手続きに必要な書類を集めるだけで大変で、費用もかかります。また、書類のやりとりの手間もかかります。
これらの手続きは法律で要請されていることなので、省略できません。同意があっても関与が必要になるため書類がそろうまで手続きが進みません。
もしも遺言で相続人を指定しておけば、これらの手間は発生しません。指定された家族(相続人)が他の相続人の関与なく遺言の内容に沿って簡単に名義を変更することができます。銀行や郵便局など、その他の手続きも同様です。(一部分割での払渡しに応じてくれることもありますが、割愛します)
子供がいない人の相続は特に複雑になりやすい
特に複雑なのは、相続人が多岐にわたるケースです。中でも子供(養子含む)がいない人は相続が複雑になりやすく、特に遺言を書くことをおすすめします
配偶者(夫、妻)は常に相続人になるものの、子供がいないと、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。高齢で入院していたり、認知症などで遺産分割協議ができない場合もあります。
さらに兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合はその子たち、甥っ子姪っ子が相続人になります。疎遠になっていても連絡を取る必要が出てきます。このように相続の範囲が広がると、遺言がない場合、前述の手続きが非常に面倒になります。
※実際には、兄弟姉妹よりも、亡くなった方の親や祖父母が相続人として優先されます。しかし通常、非常に若くして亡くなった等でなければ、親やその上の代はすでに亡くなっていることが多いため、ここでの説明は省略します。
再婚をしていて配偶者の連れ子がいる、実の親子のように過ごしてきたが養子縁組はしていない…というケースも特に要注意です。遺言がなければ連れ子に財産はわたりません(介護をしてきたなど寄与分として認められることもありますが、それもまた大変です。民法改正で特別寄与料もできましたが相続人とのやり取りが必要になります)。
この場合、養子縁組をして法律上親子になる手続きを取る以外に、遺言で財産を残すことも可能です。どちらがいいかは、具体的にお話を伺って、アドバイスさせていただきます。
争いは遺産額の多さに関係なく発生します
「遺産が少ないから争いにはならない」と思うかもしれません。しかし、必ずしもそうとは言い切れません。遺産額が少額の事件でも家庭裁判所に遺産分割事件として持ち込まれるケースもあります。
不動産の名義をほかの人と共同にすることはいろいろな問題が発生する可能性があります。
実家のみが相続財産となるケースにおいて、親の実家を売りたい人もいれば残したい人もいるがどうすれば、相続人同士で土地を分割するには、その実家に誰かが住み続ける場合は…。さらに、固定資産税の支払、植木雑草、空き家の管理や維持費はどうするのかなども考えないといけません。分割方法を決めるのが難しい不動産(土地、家屋)もあります。
その際、遺言として残しておけば、相続人もどうすればよいのか迷う必要がなく、生前のご意思に沿って進めることができます。そのため「財産が少ないから、家族仲がよいから」遺言はなくてよい、とは言えないのです。
家族関係、相続関係は、いろいろなケースがあり、具体的にじっくりお話を聞かないと見えてこないことが数多くあります。法律上のことだけでなく、感情や関係を考慮したほうが良いケースもあります。まずは司法書士にご相談ください。
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